温情の裕かな夏目さん
内田魯庵

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)私が這入《はい》って行くと、

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一人|此処《ここ》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いや[#「いや」に傍点]な
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 夏目さんとは最近は会う機会がなかった。その作も殆んど読まない。人の評判によると夏目さんの作は一年ましに上手になって行くというが、私は何故だかそうは思わない、といって私は近年は全然読まないのだから批評する資格は勿論ないのである。
 新聞記事などに拠って見ると、夏目さんは自分の気に食わぬ人には玄関払いをしたりまた会っても用件がすめば「もう用がすんだから帰り給え」ぐらいにいうような人らしく出ているが、私は決してそうは思わない。私が夏目さんに会ったのは、『猫』が出てから間もない頃であった。夏目さんは気むずかしい黙っている人だとやらに平生聞いていたから会いたいとは思いながら、ついその時まで見合せていたような具合で……。初めて会った時だってわざわざ訪ねて行ったのではなかったが、何かの用で千駄木
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