《しか》なり犬《いぬ》なり猫《ねこ》なるを妨《さまた》けず。稼《かせ》ぐものあれば遊《あそ》ぶ者あり覚《さ》める者あれば酔《ゑ》ふ者あるが即ち世《よ》の実相《じつさう》なれば己《おの》れ一人《ひとり》が勝手《かつて》な出放題《ではうだい》をこねつけて好《い》い子《こ》の顔《かほ》をするは云はふ様《やう》なき歿分暁漢《わからずや》言語同断《ごんごどうだん》といふべし。縦令《たとひ》石橋《いしばし》を叩《たゝ》いて理窟《りくつ》を拈《ひね》る頑固《ぐわんこ》党《とう》が言《こと》の如く、文学者《ぶんがくしや》を以《もつ》て放埓《はうらつ》遊惰《いうだ》怠慢《たいまん》痴呆《ちはう》社会《しやくわい》の穀潰《ごくつぶ》し太平《たいへい》の寄生虫《きせいちう》となすも、兎《と》に角《かく》文学者《ぶんがくしや》が天下《てんか》の最幸《さいかう》最福《さいふく》なる者たるに少《すこ》しも差閊《さしつかへ》なし。然《しか》るを愚図々々《ぐづ/\》と賢《さか》しらだちて罵《のゝし》るは隣家《となり》のお菜《かず》を考《かんが》へる独身者《ひとりもの》の繰言《くりごと》と何《なん》ぞ択《えら》まん。
加之《しかのみならず》、文学者《ぶんがくしや》を以《もつ》て怠慢《たいまん》遊惰《いうだ》の張本《ちやうほん》となすおせツかい[#「おせツかい」に傍点]は偶《たま》/\怠慢《たいまん》遊惰《いうだ》の却《かへつ》て神《かみ》の天啓《てんけい》に協《かな》ふを知《し》らざる白痴《たはけ》なり。謹《つゝし》んで慮《おもんぱ》かるに神《かみ》の御恵《みめぐみ》洽《あまね》かりし太古《たいこ》創造《さう/″\》の時代《じだい》には人間《にんげん》無為《むゐ》にして家業《かげふ》といふ七むづかしきものもなければ稼《かせ》ぐといふ世話《せわ》もなく面白《おもしろ》おかしく喰《くつ》て寝《ね》て日向《ひなた》ぼこりしてゐられたものゝ如し。アダム[#「アダム」に傍線]の二本棒《にほんぼう》が意地《いぢ》汚《きたな》さの摂《つま》み喰《ぐひ》さへ為《せ》ずば開闢《かいびやく》以来《いらい》五千|年《ねん》[#ルビの「ねん」は底本では「わん」]の今日《こんにち》まで人間《にんげん》は楽園《パラダイス》の居候《ゐさふらふ》をしてゐられべきにとンだ[#「とンだ」に傍点]飛《とば》ツ塵《ちり》が働《はたら》いて
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