だ何とか一見他に劣らざる様の方法をのみ求むるなり。堅実なる大欲望は彼らの有しうるところにあらず、彼らの有するところはただ浮薄なる小|羨望《せんぼう》なり。
次に「徳用飯殖焚法」と題するものは、「ある作用によりて飯を四割以上増殖する焚き方なり」とて、「米価大騰貴の際、各戸一日も欠くべからざる発明」と言えり。かくのごとき広告をなす者あるは、必ずまたこれに飛びつく者の多かるべきを知るがゆえなり。されば、世の多くの人は、尋常一様の方法によらずして、何らか不可思議なるある作用により、たちまち生活の困難を減ぜんとするの欲望あることを察すべし。彼らは勤勉して今より多くの金を得んとするよりも、節倹して無益の冗費を省かんとするよりも、何らの労苦なしに偶然ある作用によりて安楽を得んことを求むるなり。彼らの欲するところは僥倖《ぎょうこう》なり。彼らの待つところはたなから落ち来たるぼたもちなり。
吾人が見当たりたる二個の面白き広告は、その実、僥倖心と羨望心との反映なること上述のごとし。今の社会は実にかくのごとき僥倖心と羨望心とをもって満たされおるなり。しかれどもこれ必ずしも個人の浮薄と惰弱とより来たると言
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堺 利彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング