ては、ある時、意外なことで叱られたことがある。それは私より二つばかり年上の、少し裕福な家の友達が詩を作っているのを見て、私も真似したくなって、たしかそれに関する雑誌が買いたいとか何とか言いだしたところが、そんなことを見習うほどなら、あんな友達とつきあうのをやめてしまえと、さんざんにきめつけられた。私としては、金がないから買ってやれぬと言われるのなら、少しも不平など起さぬつもりであったが、友達とつきあうなと言われたのが不平で堪らなかった。しかし父はその後、東京に行っている兄の処に言ってやって、『作詩自在』という小さい本を取寄せてくれた。私はまた、その事件のつづきであったかどうかは忘れたが、その頃、父から横面を平手で烈しくぶたれたことがある。私がよほど悪《あく》たれたことでも言ったからであろうが、私としては、悔しくて悔しくて、ずいぶん永いあいだ泣いたように思う。そして一生涯、その不愉快の感じが幾らか残っていた。
また、私は父に対してこういう滑稽な不平も持っていた。私は犬が好きで、途中で犬に会うと、口笛を吹いてやったり、頭を撫でてやったりして、仲好しになってしまう。そして結局、内まで連れて
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