二個の半球に切り割かれた時、「ほう! 見事じゃのう!」と父がサモ嬉しそうな感嘆の声を発する。その中、半球がさらに二つに割かれて、ザクリ、ザクリ、赤い山形が続々と切り出される。私らは物をも言わずに、いきなりそれにかじりつくのであった。ただ一つ私の不満で堪らないのは、父母が馬鹿に念を入れた、腹下しの用心からして、ついぞ一度も、思う存分、食わせてくれなかったことである。
 西瓜について一つおかしい話がある。お隣り――と言っても、裏の松山の間の小道を二十|間《けん》ばかりも行った処だが――そのお隣りの中村という家では、どういうものか西瓜を作らない。「あそこの嫁嬢《よめじょう》は西瓜が大好きじゃちゅうのに一度も食べんで気の毒じゃ」と言うので、ある日の西瓜切りの時、母がその嫁嬢を呼んで来た。嫁嬢は大喜びで散々食べて行った。ところが、その嫁嬢、ちょうど臨月であったのだが、その晩、急に産気がついた。サア私の内では大心配をした。西瓜が当ったのではあるまいか。もしかそうだとすると申しわけがない。余計のことをせねばよかった! ことに母は、気が気でなく騒いでいた。しかしお産は幸いに無事で、好い女の子が生れたの
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