に感ぜられると見える。
それから柿色の鼻緒のついた庭下駄をはかせられて外に出ると、「そこにシャガンで待ってろ」という命令が下る。暫く待っていると、今度は「立て」「進め」という命令が下る。二足三足進むと、「待て待て、帯の結びようが違う」と叱られる。謹んで承たまわるに、帯は蜻蛉に結んでそしてその輪の方を左に向けるのだとのこと。ヤットそれを直してまた行きかかると、「オイオイ手を振ってはイカン」とまた叱りつけられる。諸君試みにやってごらんなさい、手を少しも振らせずに歩くのは非常に困難なものであります。
行くこと半町ばかりにして、赤煉瓦の横長い建物の正面の入口に来た。鉄柵の扉に錠がおろしてある。サア来た、いよいよこれだなと思うていると、「新入が十五名」と呼びながら外の看守が我々同勢を内の看守に引渡した。我々は跣足になって鉄扉の中に入った。中はズウット長い石畳の廊下で、冷やりとした薄気味の悪い風がソヨリと吹く。「そこに坐る」といわれたのですぐ前を見ると、廊下の片側に薄い俎のようなものが幾つも並べてあって、その上に金椀だの木槽だのがおいてある。よく見れば杓子も茶碗もある。いうまでもなくこれが御膳
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