署゚がなくなれば鰹節をさらって来るし、炭がなくなれば、炭をさらって来るし、ホントに便利なもんだ。それに彼奴ら義理が堅くてとッつかまってもめったにボロを出しゃしないや。いつやら兄さんも一しょに来い来いというからついて行って見ると、ある宮の境内にきて、兄さんお酒が好きだから今にもって来てやる、ここに待っていろという。暫くするとビールを二本さげて来た。コップがないというと、またはしりだして今度はガラス屋からコップを一つさらって来た。ホントにおかしいように便利なもんだぜ。」

   一七 獄中の音楽

囚人半月天を見ず。
囚人半月地を踏まず。
されど自然の音楽は、
自由にここに入り来る。」
朝は朝日に雀鳴く。
わが妻来れ、チウチウチウ。
子らはいずこぞ、チュンチュンチュン。
ここに餌《えは》[#《えは》はママ]あり、チュクチュクチュク。」
夕は夕日に牛の鳴く。
永き日暮れぬ、モオオオオ。
務め終りぬ、モオオモオ
いざや休まん、モオモオモオ。」
夜は夜もすがら蛙鳴く。
人は眠れり、ロクロクロク。
世はわが世なり、レキレキレキ。
歌えや歌え、カラコロコロ。」
晴には空に鳶の声、
笛吹くかとぞ思わる
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