間《ねま》へ行着《ゆきつき》ましたが、どこからともなく、ホンノリと来る香《こう》は薫《かお》り床《ゆか》しく、わざと細めてある行燈《あんどう》の火影《ほかげ》幽《かす》かに、室《へや》は薄暗がりでしたが、炉《ろ》に焚《た》く火が、僅《わず》か燃残《もえのこ》って、思い掛けぬ時分にパット燃上っては廻りを急に明るくすると思えば、また俄《にわ》かに消失せて、元の薄暗がりになりました。僕は気味悪さに、ただそこここと見廻している斗《ばか》りでしたが、「モット側へおより」と徳蔵おじにいわれて、オジオジしながら二タ足三足、奥さまの御寝《おやすみ》なってるほうへ寄《より》ますと、横になっていらっしゃる奥様のお顔は、トント大理石の彫刻のように青白く、静な事は寝ていらっしゃるかのようでした。僕はその枕元にツクネンとあっけにとられて眺《なが》めていると、やがて恍惚《うっとり》とした眼を開《ひらい》てフト僕の方を御覧になって、初《はじめ》て気が着《つい》て嬉しいという風に、僕をソット引寄て、手枕をさせて横に寐かし、何かいおうとして言い兼《かね》るように、出そうと思う言葉は一々長い歎息《ためいき》になって、心に
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