をはずませてゐる。
『さうか、それはよかつた、其處の濱だけで……』
 彼等のうなづいて飛んで行くのを見ながら私は濱徑へ折れた。
 濱はまだ明るかつた。そして網の曳きあげられた浪打際から十四五人の人が何やら大きなものを擔いでこの松原つゞきの濱の高みに登つて來るところであつた。
 なるほど大きな龜である。二本の棒で、四人の若者に擔がれたこの怪物はやがて漁師小屋の前におろされた。まさしく二抱への胴のまはりと、それに相應した背丈とを持つてゐた。淡色をした首は厚ぼつたく幾重かに皺ばんで、ずつと縮めた時は直徑一尺もあるかに見えた。
 あふ向けになつたまゝ置かれてゐるので彼は動く事は出來なかつた。そして時々その不恰好《ぶかつかう》な身體に合せては小さい四肢をかたみがはりに動かして自分の腹部の甲良を打つてゐた。打つごとにがちやりがちやり[#「がちやりがちやり」に傍点]と音がした。網で痛めたか、眼は兩方ともに血走り、蝋涙の樣なものが斷えず流れて、その末は白くねばりついてゐた。腹の甲良は龜甲形の斑を帶びながらいかにも滑らかで、そして赤みを帶びて黄いろく、美しかつた。
『玳瑁《たいまい》といふでねヱかナ』

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