を訪ねた。爺さんはまだ夕闇の庭で働いてゐた。見るからに荒れすたれた家で、とても一泊を頼むわけに行きさうにもなかつた。当惑しながら、ほかにもう宿屋は無からうかと訊くと、木賃宿ならあるといふ。結構、何処ですといふと爺さんが案内して呉れた。木賃宿とは云つても古びた堂々たる造りで、三部屋ばかり続いた一番奥の間に通された。
煤びた、広い部屋であつた。先ず炬燵が出来、ランプが点り、膳が出、徳利が出た。が何かなしに寒さが背すぢを伝うて離れなかつた。二間ほど向うの台所の囲炉裡端でもそろ/\夕飯が始まるらしく、家族が揃つて、大賑かである。わたしはとう/\自分のお膳を持つてその焚火に明るい囲炉裡ばたまで出かけて仲間に入つた。
最初来た時から気のついてゐた事であつたが、此処では普通の厩でなく、馬を屋内の土間に飼つてゐるのであつた。津軽でもさうした事を見た、余程この村も寒さが強いのであろうと二疋並んでこちらを向いてゐる愛らしい馬の眼を眺めながら、案外に楽しい夕餉を終つた。家の造り具合、馬の二疋ゐる所、村でも旧家で工面のいゝ家らしく、家人たちも子供までみな卑しくなかつた。
十一月十日。
満天の星である
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