、矢張りいなめなかつた。その父と姉と友と私と、わざと町裏の田圃路を通つてこの前來た時も行つた事のある遠い料理屋へ出かけて行つた。新城町は桑畑の中に在り、兵兒帶の樣な長いながい一筋町である。
 杯をなめながら、席に出た藝者たちから私は意外な事を聞いた。鳳來寺山の佛法僧聽きが近來急に流行り出し、なほその宣傳のため土地の有志に招かれてわたしたち一組は昨夜出かけ、殘る一組は今夜鳳來寺に佛法僧聞きに行つてゐる、といふのだ。呆れながら、お前たちがあの鳥を聞いて何にするのだ、と言へば、いゝえ、お客樣ごとにその事を吹聽《ふいちやう》して勸めるのですよ、といふ。その代り佛法僧は近來頻りに啼くのださうだ。この前、私の聽きに來た時は山の上の寺に九晩《ここのばん》泊つて辛うじて二晩だけ聽き得たのであつた。今は行きさへすれば毎晩聞けるといふ。聲を絞つて友人は言つた、佛法僧もえらく商賣氣を出したもんですネ、と。
『それも先生のおかげサ。』
 早や醉つて顏は眞赤に、豐かな頬鬚のつや/\と白い老父は笑つた。この前來た時、私は『鳳來寺紀行』にこの鳥の事を書いて雜誌『改造』に出した。それが今まで殆んど無關心であつたこの附
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