色がうすもゝ色であつた。普通の、白い百合も稀に咲いてゐた。
勞れて來たせゐか、今度の下《くだ》りは長かつた。自づと話がはずんだが、元氣のいゝ話ではなかつた。自分の爲事の不平、朝夕の暮しの愚痴、健康の不安、中にもこの友が自分の子供に對する心配などは身にしみて聞かれた。
やがて、麥刈り、田鋤き、桑摘みの忙しさうな村に出た。埃の立つ道を急ぐともなく急いで、漸く豐川の岸に出た。偶然にも道はこの前同じく新城《しんしろ》の友を訪ねて來た時散歩に出て渡つた辨天橋の上に出た。高い橋、深い淵、淵の尻の眞白な瀬、私たちは暫く橋の上に坐つて帽子をぬいだ。
ともするとその枕許に坐つて話をする事になりはせぬかと氣遣つて來た新城町の友K――君は幸にも起きてゐた。而かも私の訪問がだしぬけであつたので、呆氣《あつけ》にとられながら小躍りして喜んだ。然し、いつもながら聲はろくに出なかつた。結核性の咽喉の病氣にかゝつて六七年も私の沼津に來て養生してゐたのだが、この數ケ月前、其處を引上げて郷里に歸つてゐたのである。その姉も、その父も、友に劣らずこの突然の訪問を喜んだ。姉も、父も、この病人のために全てを犧牲にしてゐると
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