涙を湛へつゝ息急《いきせき》とやつて來た。そして一人の娘の行衞などを氣遣ふといふよりも、先づ眞先に一人殘つた姉のお米を引捉へて、斯く叫び立てた。
「可し、ぢや貴樣が彼奴の代理《かはり》になるんだぞ、もう今度こそは!」
と、血の樣な眼をして娘を睨みすゑた。
幾人も集つて居る中に混つて、私も同じくハラ/\としながら見詰めて居ると、案外にも娘は、お米は、
「ハイ」
と低く云つて、例の大きい鈍い瞳を閉ぢて、そして又開いた。
底本:「若山牧水全集 第九卷」雄鶏社
1958(昭和33)年12月30日発行
初出:「新聲」
1907(明治40)年12月号
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2004年1月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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