る事がある。その時は例の本尊かけたか[#「本尊かけたか」に傍点]の律も破れて、全く急迫した亂調となつて來る。日のよく照る朝など、聽いてゐて息苦しくなるのを感ずる。この鳥は聲よりも、峰から峰、梢から梢に飛び渡る時の、鋭い姿が誠にいゝ。それから高調子の聲に混つて、何といふ鳥だか、大きさは燕ほどでその尾の一尺位ゐ長いのがゐて、細々と、實に細々と息を切らずに啼いてゐるのがある。これは下枝《しづえ》から下枝を渡つて歩いて、時には四五羽その長い愛らしい尾をつらねてゐるのを見る。
 日が闌《た》けて、木深い溪が日の光に煙つた樣に見ゆる時、何處より起つて來るのだか、大きな筒から限りもなく拔け出して來る樣な聲で啼き立つる鳥が居る。初めもなく、終りもない、聽いて居れば次第に魂を吸ひ取られて行く樣に、寄邊ない聲の鳥である。或時は極めて間遠に或時は釣瓶打《つるべう》ちに烈しく啼く。この鳥も容易に姿を見せぬ。聲に引かれて何卒して一目見たいものと幾度も私は木の雫に濡れながら林深く分け入つたが、終に見る事が出來なかつた。筒鳥といふのがこれである。
 筒鳥の聲は極めて圖拔けた、間の拔けたものであるが、それをやゝ小さく
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