ふだけで、報酬といふものも殆んど無かつた。それでまた諦めてゐたのであるが、彼は急にそれで慊《あきた》らなくなつた。或る夜、得々として私に言ひ出した。今日酒屋から歸りに△△院といふに寄つて、前から話のあつた事ではあるしどうかこちらへ私を使つて呉れぬかと頼んだ所、お前さへよければいつ來てもいい、働き一つで五圓でも六圓でも金はやるからと言はれた、明日早速里に降りてこちらのお住持には斷りを言うてあちらのお寺へ移る事にする、さうすれば私もまたこれから時々は斯うしたお酒も飮めるからと、いかにも嬉しげなのである。何となく困つた事を仕出かした樣にも思うたが、強ひて止めるわけにもゆかず、それでいつから移るのだと訊くと、旦那がこゝを立たれる日に直ぐ移るといふ。こちらの住持が困りはせぬかと言へば、少しは困るだらうが致し方が無い、大體こちらのお住持が餘りに吝嗇《けち》だから斯ういふ事にもなるのだといふ。
いよ/\私の寺を立つ日が來た。その前の晩、お別れだからと云ふので、私は爺さんのほか、最初私をこの寺に周旋して呉れた峠茶屋の爺さんをも呼んで、いつもよりやや念入りの酒宴を開いた。茶屋の爺さんは寺の爺さんより五
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