纒《はんてん》を引つかけたまゝで下はから脛の、見るからに變な樣子であつた。
『アツ!』
私は初めて氣がついた、彼等はすべて小田原の人であつたのだ。それで、この異樣な樣子が呑み込めると同時に口早やに問ひ掛けた。
『君等はやられたのですね、どうでした、小田原は?』
『すつかりやられました、身體一つで燒出されました……』
漸く私は彼等を座敷に招じた。聞けば彼等は三人共各學校柔道の選手で、九月一日には小田原小學校で始業式の濟んだあとが柔道大會となり、彼等は全て柔道着か裸體かになつて式場(雨天體操場などであつたらうと思ふ)に出てゐた。ドツと來ると共に學校は潰《つぶ》れてしまつた。幸ひ彼等のゐた場所は場内の中央であつたゝめ、落ちた屋根も其處だけは多少の空隙を殘してゐて壓死をば免れたが、まん中どころ以外に並んで見物してゐた幼い生徒たちは殆んど全部ひしやがれてしまつた。そのうち小使部屋から火が出た。何處をどう掻き破つて出たのだか兎に角に三人とも素裸體で、諸所に擦傷を負ひながらもつぶれた屋根の下から這ひ出す事が出來た。出て見ると町にはすつかり火が※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐたさう
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