をさへ加へた。焦燥はやがて一つの決心を私に與へた。
『よし、行つて來よう、行つて見て來よう!』
 さう思ひ立つともう大抵無事だと解つてゐる三島の方へなど行つてはゐられなかつた。三島はあと※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しだ、と思ひ捨てながらとつとゝ踵をかへして歩き始めた。
 家に歸つてから妻との間にいろ/\の問答や相談が繰返された。入京の非常に難儀なこと、私自身の健康のこと、旅費のこと、それからそれと頭の痛くなるほど繰返されてゐるところへ、ひよつこり庭先へ服部純雄さんがやつて來た。彼は昨日岡山から職員總代、學生總代其他と三人の人を連れて、
『君たちを掘り出すつもりでやつて來たのだが、まア/\噂《うはさ》の樣でなくてよかつた。』
 と、言ひながら、その明るい笑顏を見せたのであつた。關西地方では最初沼津地方激震死傷數千云々といふ風に傳へられ、それに驚いて飛んで來たのであつたさうだ。その服部さんが勇しい扮裝を見せながら、『とても君危險で箱根から向うには行けないさうだ、此處まで來たついでに東京まで行つてやらうといま町でいろ/\用意をしたんだが……』
 と、その種々の危險を物語つた。

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