の高山(二首静浦より三津へ)
浪の穗や音に出でつつ冬の海のうねりに乘りて散りて眞白き
舟ひとつありて漕ぐ見ゆ松山のこなたの入江藍の深きに(四首江の浦)
奥ひろき入江に寄する夕潮はながれさびしき瀬をなせるなり
大船の蔭にならびてとまりせる小舟小舟に夕げむり立つ
砂の上にならび靜けき冬の濱の釣舟どちは寂びて眞白き
[#ここで字下げ終わり]
富士川の鐵橋を過ぎて岩淵蒲原由比の海岸、興津の清見寺、さらに江尻から降りて三保の松原に到るあたりのことを書くべきであらうが、蒲原由比は東海道線を通るひとの誰人もがよく知つてゐる處であらうし、三保にもさほど私は興味を持たぬ。海も松原も割合に淺くきたなく、唯だ羽衣の傳説と三保と呼ぶ名稱の持つ優美感とが一つの美しい幻影を作りなしてゐる傾きが無いではない。
松原ならば私は沼津の千本松原をとる。公園になつてゐるあたりはつまらないが、其處を少し離れて西へ入ると實にいゝ松原となつてゐる。樹がみな古く、且つ磯馴松《そなれまつ》と見えぬ眞直ぐな幹を持ち、一樣に茂つた三四町の廣さを保つてずつと西三里あまり打ち續いて田子の浦に終つてゐるのである。海岸の松原としては全く珍
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