が輝いてゐた。が、西の方の目黒附近では丘と窪地との交錯が極めて複雜に相交はり、其處に生えてゐるのは松であり、孟宗竹の藪であつた。無論楢櫟等武藏野らしい雜木もその間に立ち混つてはゐるけれど。
 そしてこちらの郊外の背景をなすものは遠く西の空に浮んでゐる富士山の姿であることを忘れてはならぬ。何處からでも大抵は見えるこの山ではあるが、ことに此處等の赤松林の下蔭、幾つか連つた丘陵の一つのいたゞきから望み見る姿は、たゞの野原であるのより遙かに趣きが深いのだ。
 さう書くと、ほんの赤土の崖の上である樣な東の郊外田端の高みから望む筑波のことをも書かねばならぬ。同じく西の郊外から見る野の末の秩父の連山、よく晴れゝば其處まで見る事の出來る甲州信州上州路かけての遠山の事などをも。



底本:「若山牧水全集 第七卷」雄鷄社
   1958(昭和33)年11月30日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:柴 武志
校正:林 幸雄
2001年6月13日公開
2005年11月16日公開
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