一寸した高みになつてゐた。其處から丘づたひに左は林右は畑といふ處を歩いたのもいゝ氣持であつた。そして此處の丘にはこの邊に珍しい松の木立があつた。ほんのばらばらとした小さなものであつたが、東京の北から東にかけての郊外では全く珍しいものであつた。今は稻荷の側からかけて幾軒かの大きな別莊になつてゐたとおもふ。
その丘を降りた所に氷川神社といふがあり、神社の境内に小さな茶店などの出てゐる事もあつた。もう少し歩かうとそのまゝ丘に添うて西北へゆく。
この邊は右に雜木の丘を、左に田圃や畑を見てゆく丘の根の路となつてゐるのだ。(二三年前からこの邊は向う十四五町がほどにずらりと立派な別莊が建ち並んでしまつた。)斯くして歩くことなほ二三十町ほどで中野の藥師さまに着くのであつた。藥師さま附近の一二軒の小料理屋なども鄙《ひな》びていゝものであつた。
ばら/\松の小さな木立を珍しいと書いたが、東京の西部の郊外にはそれが到る所に茂つてゐた。即ち澁谷、目黒あたりから西へ入り込んだ丘陵の上にだ。
池袋雜司ヶ谷戸山ヶ原板橋附近の郊外は總じて平地で、其處に茂つてゐるものは櫟《くぬぎ》であつた。そしてその下草には芒
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