も、眞直ぐに降る山窪の雨の白さも、みな極めて美しい眺めとなつて來た。
『燕!』
 私は思はず聲に出して、自分の前の山合にまひ降りてはまた高くまひ上つてゆく小さな鳥に眼をとめた。まつたくそれは今年初めて見る燕の鳥であつた。
『來たなア』
 さう思ひながら私は松の蔭に這ひ出して行つた。
 一羽、二羽、三羽と續いてその身輕な鳥は眞青な小松の原を渡つてゐるのだ。
 幸ひと雨は晴れて來た。急に輝いて見える伊豆の山の白雲の蔭の海の色は山の根だけ日本刀の峰などに見る青みを宿し、片側の廣い部分にはさら/\として細かな波を立て始めてゐた。



底本:「若山牧水全集 第七卷」雄鷄社
   1958(昭和33)年11月30日発行
入力:柴 武志
校正:林 幸雄
2001年6月13日公開
2005年11月14日修正
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