なべてさびしく見えわたるかな
梅の花はつはつ咲けるきさらぎはものぞおちゐぬわれのこころに
[#ここで字下げ終わり]
然し何と云つても春は櫻である。それもお花見場所の埃つぽいのは花のおもひがせぬ。靜かな庭に咲き出でた一本二本、雨の後などとりわけて鮮けく、照り澄んだ日ざしのなかにほくらほくらと散り澄んで輝いてゐるのもいゝ。
[#ここから3字下げ]
夕霽《ゆふあがり》暮れおそきけふの春の日の空のしめりに櫻咲きたり
雨過ぎししめりのなかにわが庭の櫻しばらく散らであるかな
ひややけき風をよろしみ窓あけて見てをれば櫻しじに散りまふ
春の日のひかりのなかにつぎつぎに散りまふ櫻かがやけるかな
[#ここで字下げ終わり]
さういふうちにも私はほんたうの山櫻、單瓣の、雪の樣に白くも見え、なかにかすかな紅ゐを含んだとも見ゆる、葉は花よりも先に萌え出でて單紅色の滴るごとくに輝いてゐる、あの山櫻である。これは都會や庭園などには見かけない、どうしても山深くわけ入らねばならぬ。
[#ここから3字下げ]
うす紅《べに》に葉はいちはやく萌え出でて咲かむとすなり山ざくら花
花も葉も光りしめらひわれのうへに笑み傾ける
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング