樹木とその葉
秋風の音
若山牧水
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)秋風の音《ね》を
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/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)をり/\
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いちはやく秋風の音《ね》をやどすぞと長き葉めでて蜀黍《もろこし》は植う
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私は蜀黍の葉が好きである。その實を取るのが望みならば餘り肥料をやらぬ方がよい。然し、見ごとな葉を見やうとならばなるたけ多く施した方がよい。
書齋の窓に沿うた小さな畑に私は毎年この蜀黍を植ゑる。今年はその合間々々に向日葵を植ゑて見た。兩方とも丈の高くなる植物で、一方はその葉が長く、一方はその花が大きい。
一年中さうではあるが、夏は別して私は朝が早い。大抵午前の三四時には窓をあけて椅子に倚る。此頃だともう三時半には戸外がうす明るくなつて來る。そのさやかな東明の微光のなかに、伸びるだけ伸びつくしたこの二つの植物が、一つは黒ずんで見えるまでの青い葉を長々と垂れて立ち、一つは今朝にも咲き出でた樣に鮮かな純黄色の大輪の花を大空に向けて咲いてゐるのを見ると、まつたく眼のさめる思ひがするのである。窓からさした電燈の光で見ると、蜀黍の葉の兩側には點々として露の玉が宿つて居り、なほよく見るとその葉のまんなかどころにちよこなんと一疋の青蛙が坐つてゐる。不思議にこの葉にはこのお客樣が來てゐるものである。
ぢいつとそれらに見入つてゐると、その畑の中から蟋蟀《こほろぎ》の鳴く音が聞ゆる。もうこの蟲が鳴き出したかと思つてゐると、遠くでは馬追蟲の澄んだ聲も聞えて來るのである。
夏の末、秋のはじめの斯うしたこゝろもちはいかにも佗しいものである。
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愛鷹山《あしたか》の根に湧く雲をあした見つゆふべ見つ夏のをはりとおもふ
明がたの山の根に湧く眞白雲わびしきかなやとびとびに涌く
畑なかの小みちを行くとゆくりなく見つつかなしき天の川かも
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沼津の町から私の住んでゐる香貫山の麓まで田圃の路を十町ほど歩いて來ることになる。
をり/\町に出て酒を飮む。客と共にすることもあり、獨りの時もある。そしてそれは多くは夜で、その歸りは大抵夜なかの一時とな
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