る夜の雨の音のたぬしも寢ざめて聽けば
あららかにわがたましひを打つごときこの夜の雨を聽けばなほ降る
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 雨はよく疲れた者を慰むる。
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あかつきの明けやらぬ闇に降りいでし雨を見てをり夜爲事を終へ
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 遠山の雲、襞《ひだ》から襞にかけておりてゐる白雲を、降りこめられた旅籠屋《はたごや》の窓から眺める氣持も雨のひとつの風情《ふぜい》である。
 山が若杉の山などであつたらば更にも雨は生きて來る。
 紀伊熊野浦にて。
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船にして今は夜明けつ小雨降りけぶらふ崎の御熊野《みくまの》の見ゆ
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 下總犬吠岬にて。
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とほく來てこよひ宿れる海岸のぬくとき夜半を雨降りそそぐ
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 信濃駒ヶ嶽の麓にて。
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なだれたち雪とけそめし荒山に雲のいそぎて雨降りそそぐ
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 上野《かうづけ》榛名《はるな》山上榛名湖にて。
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山のうへの榛名の湖《うみ》の水ぎはに女ものあらふ雨に濡れつつ
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