無理がきかなくなつたのだ。
對酌の時は獨酌の時より幾らか量の多いのを厭《いと》はない。つまり三合が四合になつても差支へない樣だ。獨酌五合で翌朝頭の痛むのが對酌だと先づそれなしに濟む。けれどその邊が頂點らしい。七合八合となるともういけない。
人の顏を見れば先づ酒のことをおもふのが私の久しい間の習慣になつてゐる。酒なしには何の話も出來ないといふ樣ないけない習慣がついてゐたのだ。やめよう/\と思ふ事も久しいものであつたが、どうやら此頃では實行可能の域にだけは入つた樣だ。何よりも對酌後の宿醉が恐いからである。
運動をして飮めば惡醉をせぬといふ信念のもとに、飮まうと思ふ日には自ら鍬《くは》を振り肥料を擔いで半日以上の大勞働に從事する創作社々友がいま私の近くに住んでゐる。この人はもと某專門學校の勅任教授をしてゐた中年の紳士であるが、さうして飮まれる量は僅かに一合を越えぬ樣である。その一合を飮むためにそれだけの骨を折ることは下戸黨から見ればいかにも御苦勞さまのことに見えるかも知れない。然し得難い樂しみの一つを得るがための努力であると見れば、これなども事實貴重な事業に相違ない。まつたく身體または
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