の机の冬の薔薇
晝は晝で夜は一層ばらが冷たい樣だ何しろおちつかぬ自分の心
と思ふまにばらがはら/\と散つた朝久しぶりに凭つた暗い机に
ぢいつとばらに見入る心ぢいつと自分に親しまうとする心
斯うしてぢいつと夜のばらを見てゐる時も心はばらの樣に靜かでない
ばらが水を吸ひやめたやうだガラスの小さな壜の冬の夜のばらが
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かと思ふと、或る海岸の荒磯に遊んでは、
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あはれ悲しいで衣服《いふく》をぬがばやと思ふ海は青き魚の如くうねり光れり
とかくして登りつきたる山のごとき巨岩《きよがん》のうへのわれに海青し
岩角よりのぞくかなしき海の隅にあはれ舟人ちさき帆をあぐ
嬉し嬉し海が曇るこれから漸くわたしのからだにもあぶらが出る
身體《からだ》は一枚の眼《め》となりぬ青くかがやける海ひらたき太陽
岩のあひだを這ひて歩くはだしで笑ひて浪とわれと
鵜が一羽不意にとびたちぬ岩かげの藍色の浪のふくらみより
下駄をぬいでおいたところへ來たこれからまた市街《まち》へ歸るのだ
この帆にも日光の明暗ありかなしや青き海のうへに
水平線が鋸の齒のごとく見ゆ太陽のしたなる浪のいたまし
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