しかつた。夜は、燈臺の火を眼がけていろんな鳥が飛んで來た。そして燈臺の厚いガラス板に嘴を打ちつけては下に落ちた。朝、燈臺の下に行つて見ると幾つかのそれを拾ふ事が出來た。海鳥が多かつたが、中には伊豆の天城から飛んで來るらしい山の鳥も混つてゐた。
 燈室の床はその四壁と同じく厚いガラス張となつて居り、その下に宿直室があつた。ガラス張を天井とするこの宿直室は、一尺四方ほどの小さな窓を二つほど持つてはゐたが明りは主としてその天井から來た。一脚の卓子《テーブル》と椅子とが、燈臺の形なりの狹い圓型のその室内にあり、圓いなりの石の壁には小さな六角時計がかけてあつた。海上三十餘丈の上の空中にぼつつと置かれたこの部屋の靜けさは、また格別であつた。私はこつそりと螺旋形の眞暗な階子段を登つて來てはこの不思議な形をした小さな部屋の椅子に凭《よ》る事を喜んだ。よく當る風にしろ、よほど強く吹いてゐない限りは四尺厚さの石の壁を通してその薄暗い室内には聞えて來なかつた。
 その空中の宿直室に居なければ私は多く事務室にゐた。それは燈臺守たちの住宅の岩窟の一角に、他の部屋よりはやゝ廣目に作つてあつた。壁には日本地圖世界地
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