難所だよ。」
日本の南の端、臺灣や南洋などの事の無かつた昔ならばなるほど此處がさうであつたかも知れぬと、そんな事を考へてゐると老人は更に種々《いろいろ》と話し出した。丁度此處には沖の大潮(黒潮のことだと思つた)の流がかかつてゐるので、通りかかつた他國者の鰹船などがよく押し流された話や、鰹の大漁の話、先年|土耳古《トルコ》軍艦の沈んだのも此處だといふことなど。
かなりの時間をかけてこの大きな岬の端を通り過ぎると、汽船の搖は次第に直つて來た。そして程なく串本港に寄り、次いで古座港に寄つて勝浦に向つた。
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船にしていまは夜明けつ小雨降りけぶれる崎の御熊野《みくまの》の見ゆ
日の岬潮岬は過ぎぬれどなほはるけしや志摩の波切《なきり》は
雨雲の四方《よも》に垂りつつかき光りとろめる海にわが船は居る
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勝浦の港に入る時は雨はなほ降つてゐた。初め不思議に思つた位ゐ汽船は速力をゆるめて形の面白い無數の島、若しくは大小の岩の間をすれすれに縫ひながら港へ入り込んで行つた。その島や岩、またはその間に湛へた紺碧の潮の深いのに見惚れながら、此處で降りる用意をす
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