なんですが、まだ何とも音信《たより》がありません。」
「お寂しいでせうな、その阿母樣が。」
突然友が口を入れた。
「エ、それはね、暫くは淋しうございませうよ。」
「貴女《あなた》も寂しうございませう。」
にや/\しながら彼《かれ》は自分の方を見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]してゆるやかに斯う言つた。でも彼女《かれ》は頗る平氣で、
「エ、でもね、どうせ女は家を出る時が別離《わかれ》だと言ひますから……」
「で、お歸國《かへり》にでもなりますか、貴女《あなた》は?」
自分は見かねてまた彼女《かれ》の話の腰を折つた。
「アノ良人《うち》では歸れと言ひますけれど、歸つたところでね……それに十日に死んだとしますと今日はもう十四日ですから……今から歸つたところで仕樣もありませんし……」
「お墓があるではありませんか。それにその病身の阿母さんも待つておゐでではありませんか。」
耐《たま》りかねたといふ樣子で友は詰《なぢ》るやうに言つた。
「さうですね、それはさうですけれど……」
と、苦もなく言つて、茫然《ぼんやり》窓越しに向うの空を眺めて居る。暮れの遲い空には尚ほ一抹の微光が一
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