りつかめそうになった。
「よオし、こいつが……」
 私はたちまち躍りかかると、親蠅の咽喉《のど》を締めつけた。蠅は大きな眼玉をグルグルさせ、口吻《こうふん》からベトベトした粘液《ねんえき》を垂らすと、遂《つい》にあえなくも、呼吸が絶《た》えはてた。そしてゴロリと上向《うわむ》きになると、ビクビクと宙に藻掻《もが》いていた六本の脚が、パンタグラフのような恰好《かっこう》になったまま動かなくなってしまった。私はほっと溜息をついた。
 そのときだった。私は頭をコツンとぶつけた。見ると私の頭は天井にぶつかったのであった。何しろグングン大きくなってゆくので、こんなことになってしまったのだ。私は元々坐っていたのであるが、蠅を殺すときに中腰《ちゅうごし》になっていた。このままでいると、天井を突き破るおそれがあるので、私はハッとして頭を下げて、再びドカリと坐った。
「ああ、危かった」
 だが、本当に危いのは、それから先であるということが直《す》ぐ解《わか》った。私の身体はドンドン膨《ふく》れてゆく。このままでは部屋の内に充満するに違いない。外へ出ようと思ったが、そのときに私は恐ろしいことを発見した。

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