後には、その穴がポッカリと四角形に明いていたのであった。紙はなにか鋭利な刃物でもって、穴の形なりに三方を切り裂かれ、一方の縁でもってダラリと天井から下っていた。これは一体何を意味するのであろうか。
その穴は一升|桝《ます》ぐらいの四角い穴だったから、そこから普通の人間は出入することは出来ない。小さい猿なら入れぬこともなかったが、よしや猿が入ってきたとしても、猿がよく被害者総一郎の頭に鋭い兇器をつきこんだり、それから二間も上にある綱を結んで体重二十貫に近い彼を吊り下げることができるであろうか。これはいずれも全く出来ない相談である。猿が入ってきても何にもならない。
どうやら、これは入口のない部屋の殺人ということになる。しかも犯人は総一郎を高さが二尺あまりの卓子にのぼって吊り下げ、床上二間のところに綱の結び目を作ったとすれば、腕が頭の上に二尺ちかく伸びたと考えたにしても、その犯人の背丈は、二間すなわち十二尺から四尺を引いてまず八尺の身長をもっていると見なければならない。変な話であるが、勘定からはどうしてもそうなるのである。しかもこの八尺の怪物が入口から這入《はい》ってきたのでないとすると
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