たか」
帆村には、この糸子の言葉がさらに腑に落ちかねた。
「いや別に何でもあれしまへんけれど――よもや父は、自殺をするために自分で首をくくったのやあれしまへんやろな」
「それは検事さんの調べたところによってよく分っています。犯人は鋭い兇器をもってお父さまの後頭部に致命傷を負わせて即死させ、それから後にこのように屍体を吊り下げたということになっているんですよ。僕もそれに同感しています」
「はあ、そうでっか」と糸子は肯《うなず》き、「こんな高いところに吊るのやったら、ちょっと簡単には出来まへんやろな。犯人が、いま云やはったようなことをするのに、時間がどの位かかりまっしゃろ」
「ええ、なんですって。この犯行にどの位時間が懸るというのですか。うむ、それは頗《すこぶ》る優秀なる質問ですね。――」
帆村は腕を組んで、犯行の時間を推定するより前に、なぜ糸子が、このような突然の質問を出したかについて訝《いぶか》った。
答に出た「蠅男」
「犯行に費した時間はというと、そうですね、まず少くとも二分は懸るでしょうね。手際が悪いとなると、五分も十分も懸るでしょう」
「ああそうでっか。二分より
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