いって、村松検事は宙に下っている総一郎の頸のあたりを指した。
 帆村は身も軽々と、踏台の上にとびのった。
「ああこれですか。なるほど血の上についている綱の痕のようなものが二種類見えますネ」
 と帆村は検事の説明に同意した。
「ねえ、分るだろう。こっちに見える模様の細かい方が、今屍体を吊りあげている綱の痕だ。もう一方の模様の荒いハッキリと網目の見える方の綱が室内のどこにも見当らないんだ」
 帆村は検事の指す血痕をじっと見つめていたが、頓狂な声を出して、
「――これは綱の痕じゃありませんよ」
「綱の痕じゃないって? じゃ何の痕だい」
「さあハッキリは分らないが、これは綱ではなくて、何か金具の痕ですよ。ハンドルだのペンチだの、金具の手で握るところには、よくこうした網目の溝が切りこんであるじゃありませんか」
「なるほど――網目の溝が切りこんである金具か。うむ、君のいうとおりだ。じゃもう一本の綱を探さなくてもいいことになったが、その代りに金具を探さにゃならんこととなった。金具って、どんなものだろうネ。どうしてこんなに綱と一緒に、こんな場所に附いているのだろうネ」
 村松検事はしきりと頭をひねった
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