声のする方へ駈けだした。
「こらこら、神妙にせんか。――」
騒動の階段の下から、襟がみを引捕えられて、猫のように吊しあげられたのは一人の男と女。
「どうしたどうした」
「どちらが蠅男や」
「蠅女も居るがナ」
「あまりパッとせん蠅男やな」
そんな囁きが、周囲から洩れた。
正木署長は前へ進み出で、
「コラ、お前は見たような顔やな」
と男の方にいった。
「へえ、私は怪しい者ではござりまへん。会社の庶務にいます山ノ井という者で、今日社長の命令で手伝いに参りましたわけで……」
「それでどうしたというのや。殺されるとか死んでしまうと喚きよったは――」
「いや、それがモシ、私が階段の下に居りますと上でドシドシとえらい跫音だす。ひょっと上を見る途端に、なにやら白いものがスーッと飛んできて、この眉間にあたったかと思うとバッサリ!」
「なにがバッサリや。上から飛んで来たというのは、そらそこに滅茶滅茶に壊れとる金魚鉢やないか。なにを慌てているねん。二階から転げ落ちてきたのやないか」
「ああ金魚鉢? ああさよか。――背中でピリピリするところがおますが、これは金魚が入ってピチピチ跳ねとるのやな」
署長
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