しても寝覚《ねざめ》がわるおます」
この巨大な体躯の持ち主は、頤紐《あごひも》をかけた面にマスクもつけず、彼の大きな団子鼻は寒気のために苺《いちご》のように赤かった。なににしても、たいへんな頑張り方だった。
村松と帆村は、監視隊の間を縫って警戒線を一巡した。なるほど、映画に出てくる国定忠治の捕物を思わせるような大規模のものだった。警官の吐く息が夜目にも白く見えた。
一巡後、二人は、厳重な門を開いて貰って、玄関に入った。
さすがに屋内は、鎮まりかえっていた。でも座敷に入ると、襖《ふすま》の蔭や階段の下に、警官が木像のように立っていた。そして検事の近づくのを見ると、一々鄭重な敬礼をした。
「ああ検事さん検事さん。――」
警戒総指揮官の正木署長が、向うからやって来た。彼も頤紐をかけ、足には靴下を脱いで、その代りに古|足袋《たび》を履いていた。それは捕物の際、畳の上で滑らないためらしかった。
「おお正木君か。――君、蠅男というのは何十人ぐらいで、隊をなしてくるのかネ」
「隊をなして? ――ハッハッハッ。検事さんのお口には敵いまへん。ともかくも屋内のどこからどこまで、私のとこで完全に指
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