板をかけるような悧巧《りこう》な人間なんですよ。女だから蠅男でないとは云い切らぬ方がよくはありませんか。それよりも、早くそのフランス製の白粉の女を探しだして、それが蠅男ではないという証明をする方が近道ですよ」
「ウム、なるほど、なるほど」
検事は、孫の話を聴く祖父のように、無邪気に首を大きく振って肯いた。
そのとき、奥の方から一人の警官が、急ぎ足で入ってきた。
「検事どのに申上げます。只今、正木署長からお電話でございます。玉屋邸から懸けて参っとります」
検事は、その声に席を立っていった。帆村は、引返そうとする警官をつかまえて、莨《たばこ》を一本所望した。警官はバットの箱ごと帆村の手に渡して、アタフタと検事の後を追っていった。
帆村は、バットを一本ぬきだして口に咥えた。そして燐寸《マッチ》を求めてあたりを見まわしたが、このとき室の隅に、立たせられている鴨下カオルと上原山治の姿に気がついた。
「おお上原さん、燐寸をお持ちじゃありませんか」
と、帆村はその方へ近づいていった。
張り番の警官の方が愕いて、ポケットから燐寸を押しだして、帆村の方へさしだしたけれど、帆村はそれに気がつか
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