れについて玉屋から、どうも警察の護衛が親切でないから、司法大臣に上申するといってきた顛末《てんまつ》を伝えた。
 村松検事は署長に、その脅迫状を持っているなら見せるように云った。
 署長は、お安い御用といいながら、ポケットを探ったが、どうしたものか先刻預って確かにポケットに入れたはずの封筒が、何処へ落としたか見当らないのであった。
「どうしたんやろなア、確かにポケットに入れとったのじゃが――ひょっとすると階下《した》の大広間へ忘れてきたのかしらん。検事さん、ちょっとみてきます」
 署長があたふたと階下《した》へ下りていく後を、村松検事は追いかけるようにして、大広間の方へついていった。焼屍体のあった大広間は、監視の警官が一人ついたまま、気味のわるいほどガランとしていた。
 警官の挙手の礼をうけて、室内に入った署長は、そのとき室内に、異様の風体の人間が、火の消えた暖炉《ストーブ》の傍にすりよって、後向きでなにかしているのを発見して、呀《あ》ッと愕いた。全く異様な風体の人間だった。和服を着て素足の男なんだが、上には警官のオーバーを羽織り、頸のところには手拭を捲きつけているのだった。頭髪は蓬《
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