たものらしいんだがハッキリしない。ハッキリしないわけは、手術があまりにうまく行っているからだ。そんなに見事な手術の腕を持っているのは、一体何処の誰だろうというので、問題になっておる」
 検事村松と傷つける青年探偵帆村壮六とが、事件の話に華を咲かせているその最中に、慌《あわ》ただしく受付の看護婦がとびこんできた。
「モシ、地方裁判所の村松さんと仰有《おっしゃ》るのは貴方さまですか」
「ああ、そうですよ。何ですか」
「いま住吉警察署からお電話でございます」
 検事はそのまま席を立って、室外へ出ていった。
 それから五分ほど経って、村松検事は帰ってきた。彼は帆村の顔を見ると、いきなり今の電話の話をした。
「いまネ、鴨下ドクトルの邸に、若い男女が訪ねてきたそうだ。ドクトルの身内のものだといっているが怪しい節《ふし》があるので、保護を加えてあるといっている。ちょっと行って見てくるからネ。いずれ又来るよ」
 そういい置いて、扉の向うに消えてゆく検事の後姿を、帆村は羨《うらや》ましそうに見送っていた。


   蠅男


 時間は、それより一時間ほど前の九時ごろのことだった。
 同じ住吉区《すみよし
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