。――年齢は不明だ」
「歯から区別がつかなかったんですか」
「自分の歯があれば分るんだが、総入歯なんだ。総入歯の人間だから老人と決めてもよさそうだが、この頃は三十ぐらいで総入歯の人間もあるからネ。現にアメリカでは二十歳になるかならずの映画女優で、歯列びをよく見せるため総入歯にしているのが沢山ある」
「その入歯を作った歯医者を調べてみれば、焼死者の身許が分るでしょうに」
「ところが生憎《あいにく》と、入歯は暖炉のなかで焼け壊れてバラバラになっているのだ」
「頭蓋骨の縫合とか、肋軟骨化骨《ろくなんこつかこつ》の有無とか、焼け残りの皮膚の皺《しわ》などから、年齢が推定できませんか」
「左様、頭蓋骨も肋骨も焼けすぎている上に、硬いものに当ってバラバラに砕けているので、全体についてハッキリ見わけがつかないが、まあ三十歳から五十歳の間の人間であることだけは分る」
「まあ、それだけでも、何かの材料になりますね。――外に、何か屍体に特徴はないのですか」
「それはやっと一つ見つかった」
「ほう、それはどんなものですか」
「それは半焼けになった右足なんだ。その右足は骨の上に、僅かに肉の焼けこげがついている
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