は膝を叩いて、後をふりかえり、
「オイ、お前ちょっと水を汲んできて、柄杓《ひしゃく》でしずかにこの火を消してんか。大急ぎやぜ」
 それから彼は、もう一人の警官に命じて、電話を見つけ、本署に急報するようにいいつけた。
 帆村は、そのときソッと其《そ》の場を外《はず》した。部屋を出るとき、ふりかえってみると、大川巡査部長は長椅子の上にドッカと腰うちかけ、帽子を脱いていたが、毬栗頭《いがぐりあたま》からはポッポッポッと、さかんに湯気が上っているのが見えた。


   不意打《ふいう》ち


 いかに帆村といえども、内心この恐ろしい惨劇《さんげき》について、愕《おどろ》きの目をみはらないではいられなかった。主人|鴨下《かもした》ドクトルの留守中に、ストーブの中で焼かれた半焼屍体《はんしょうしたい》? 一体どうした筋道から、こうした怪事件が起ったかは分らないけれど、とにかくこの家のうちには、もっともっと秘密が伏在《ふくざい》しているのであろう。彼はこの際、できるだけの捜査材料を見つけだして置きたいと思った。
「ほう、これは廊下だ。――向うに化粧室らしいものが見える。よし、あの中を調べてみよう」

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