しては置けねえ。覚悟しろッ」
「なにをッ。――」
鬼神「蠅男」と探偵帆村とは、何も知らずに睡っている糸子を間に挟んで、物凄く睨《にら》み合った。
風か雨か、はた大噴火か。乾坤一擲《けんこんいってき》の死闘を瞬前にして、身構えた両虎の低い呻り声が、次第次第に高く盛りあがってくる。――
死闘
獣か人か。
怪物蠅男の身体は首の付いた痩せ胴とバラバラの手足から組立てられて居たとは、実に前代未聞の一大驚異である。
この蠅男の身体に関する秘密は、まだ十分了解することが出来なかったが、決死の青年探偵帆村荘六は脳底から沸き起ろうとする戦慄《せんりつ》を抑えつけて、厳然《げんぜん》とこの大怪物と睨み合っている。
傍らの椅子には、これまた絵に描いたような麗人糸子が膝に伏せた本の上にすんなりとした片手を置いて、何ごとも知らず安らかに眠っている。どうやら糸子は帆村の命令に従って睡眠剤を服《の》んでいるらしかった。もちろんそれは帆村のやさしき心づかいで、この場の異変にこれ以上彼女の繊細な神経を驚かせたくないという心づかいであったに違いない。
怪物蠅男は、見るもいまわしい土色の面に悪鬼
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