っさ。今夜のうちに、こっちへ来てくれるんやったら、例の疑問の人物について、私だけが知っとることを話したげます。明日から先やったら、他へ知らせますから、後から恨《うら》まんように――と、そういうておくれやす」
そこで話を終り、糸子は電話を切った。
お松は傍で聞いていて、可笑《おか》しそうに笑った。
「なんや思うたら、もう帆村はんと休戦条約だっか。ほほほほ」
しかし糸子は、思い切ったことを、帆村に申し入れたものだ。
かねて糸子は蠅男について誰も外の者が知らぬ秘密を握っていると思われたが、いよいよそれを帆村に云う気になったらしい。しかもそれを帆村だけに与えるというのではなく、今夜来なければ、警察の方に知らせてしまうぞという甚だ辛い好意の示し方をした。まだまだ彼女の帆村に対する反感が残っているらしいことが窺《うかが》われた。
でも今夜のうちといえば、帆村は果して糸子のもとへ駆けつけられるだろうか。それは出来ない相談だった。帆村はいま、暴行沙汰のため、警察の豚箱のなかに叩きこまれているはずだった。宝塚ホテルの帳場子は、帆村がそんな目に会っているとは露《つゆ》知るまい。あたら帆村も、ここ
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