タリと閉って部屋には帆村と糸子の二人きりとなってしまった。
 帆村は何を話そうというのだろう。時刻は五分、十分と過ぎてゆき、廊下に佇《たたず》んで待っている人たちの気をいらだたせた。
 すると突然、糸子の金切り声が聞えた。扉がパッと明いて、糸子が寝衣《ねまき》のまま飛び出してきたのだ。
「――帆村はんの、あつかましいのに、うち呆れてしもうた。あんな人やあらへんと思うてたのにほんまにいやらしい人や。さあ、お松。もうこんなところに御厄介《ごやっかい》になっとることあらへんしい。はよ、うちへいのうやないか」
 お松は愕いて、
「まあ、どないしはったんや。えろう御恩になっとる帆村はんに、そんな口を利いては、すみまへんで――」
「御恩やいうたかて、あんないやらしい人から恩をうけとうもない。一刻もこんなところに居るのはいやや。さあ、すぐ帰るしい。お松はよ仕度をしとくれや」
 何が糸子を憤《いきどお》らせたのであろうか。あれほど帆村に対し信頼し、帆村に対してかなりの愛着を持っていたと思われる糸子が、何の話かは知らぬが、突然憤って帆村を毛虫のように云いだしたんだから、一座もどうこれを鎮《しず》めていい
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