道草を喰っていたのだ。翻然《ほんぜん》と、探偵帆村は勇敢に立ち上った。
(一体、蠅男というやつがいくら鬼神でも、これだけの事件を起して、その正体を現わさないというのは可笑《おか》しいことだ。今までに知られた材料から、蠅男の正体がハッキリ出て来ないというのでは、帆村荘六の探偵商売も、もう看板を焼いてしまったがいい。うむ、今夜のうちに、何が何でも、蠅男の正体をあばいてしまわねば、俺はクリクリ坊主になって、眉毛まで剃ってしまうぞ)
帆村は眉をピクリと動かすと、何と思ったか、狭い室内を檻に入れられたライオンのように、あっちへ行ったり、こっちへ来たりして気ぜわしそうに歩きだした。
糸子の立腹
帆村探偵は、どんなにして次の朝を迎えたのかしらない。
とにかく彼が、室を出てきたところを見ると、普段から蒼白な顔は一層青ざめ、両眼といえば、兎の目のように真赤に充血していた。よほどの苦労を、一夜のうちに嘗《な》めつくしたらしいことが、その風体《ふうてい》からして推《お》しはかられた。
帆村は、すぐさま村松検事の留置されている警察署へゆくかと思いの外《ほか》、彼はその前を知らぬ顔して、自
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