「なアんだ。誰もいやしない」
 廊下には、猫一匹いなかった。それでも彼は念のため、廊下に出て、窓を調べてみた。窓には内側からキチンと錠が下りていた。しかし窓はしきりにガタガタと鳴っていた。真暗な外には、どうやら風が出てきたらしい。帆村はホッと息をついて、自分の部屋に帰っていった。
 風は目に見えるように次第に強くなり、ヒューッと呻り声をあげて廂《ひさし》を吹きぬけてゆくのが聞えた。
 こうしてひとりでいると、まるで牢獄のうちに監禁されたまま、悪魔が口から吐きだす嵐のなかに吹き飛ばされてゆくような心細さが湧いてくるのであった。
 チリチリチリ、チリン。
 突然、電鈴《ベル》が鳴った。電話だ。
 それは夢でも幻想でもなかった。たしかに室内電話が鳴ったのである。深夜の電話! 一体どこから掛ってきたのであろう。
 帆村は受話器をとりあげた。
「帆村君かネ」
「そうです。貴方は誰?」
 帆村の表情がキッと硬ばり、彼の右手がポケットのピストルを探った。
「こっちはお馴染《なじみ》の蠅男さ」
「なに、蠅男?」
 蠅男がまた電話をかけてきたのだ。村松検事の声とは全然違う。帆村は、蠅男に対する恐ろし
前へ 次へ
全254ページ中185ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング