取ってくれ」
「えッ、村松はんのをでっか」
鑑識子はオズオズと気の毒な容疑者村松検事の顔と、命令する水田検事との顔を見くらべた。それを聞いていた村松検事は、無言のまま、右手を前につきだした。ああその手、鑑識子の前に拡げられた村松の掌には、赤黒い血がベットリとついていた。
鑑識子は物なれた調子で、村松の指紋を別の紙の上に転写して、差出した。
「どうだネ、この両方の指紋は……」
水田検事の声は、心なしか、すこし慄《ふる》えを帯びているようであった。
鑑識子は、命ぜられるままに二枚の紙にうつし出された指紋を、虫眼鏡の下にジッと較べていたが、やがて彼の額には、ジットリと脂汗が滲みだしてきた。
「どうだネ。指紋は合っているか、合わないか」
「……同一人の指紋でおます」
鑑識子は苦しそうに応えて、ハンカチーフで額の汗を拭いた。
水田検事は、それを聞くと、傍《わき》を向いていった。
「村松氏を、殺人容疑者として逮捕せよ」
村松氏の手首には痛々しく捕縄がまきついた。曾ては、蠅男の捜査に、係官を指揮していた彼が、今は逆に位置をかえて、殺人容疑者として拘禁される身となった。
疑問の怪人「蠅
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