を云っているとは思われない。どこかに間違いがあるのであろう。一体どこが間違っているのか?
 間違っていないことは、帆村にいったとおり、それが誰にもせよ「蠅男」が今夜もキッパリ人を殺したということ!


   法曹クラブの殺人


 村松検事は、果して恐るべき殺人魔「蠅男」なのであろうか?
 検事を信ずることの篤《あつ》い帆村探偵は、誰が何といおうと、それが間違いであることを信じていた。しかし何ごとも証拠次第で決まる世の中だった。元の鬼検事正、塩田先生の殺害現場を調べた検察官はまことに遺憾にたえないことだったけれど、村松検事を殺人容疑者として逮捕するしかないのっぴき[#「のっぴき」に傍点]ならぬ証拠を握っていたのであった。
 そのときの報告書に記された殺人|顛末《てんまつ》は、次のような次第であった。
 場所は、大阪の丸の内街と称せられる堂島に、最近建てられた六階建のビルディングで、名づけて法曹クラブ・ビルというところだった。
 当夜午後九時をすこし廻ったとき、人造大理石の柱も美々しいビルの玄関に、一台の自動車が停った。そして中から降りて来たのは一人の鬚の深い老人と、もう一人は黒い服を着
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