、糸子の腕をとり、そして脈を見た。脈はすこし早かった。
心臓がよわっているようだ。
「糸子さん、静かにしていらっしゃい。こんどはもう大丈夫、十分信頼していい警官の方が保護して下さっていますから、何も考えないで、今夜はここで泊っていらっしゃい。ばあやさんか誰か呼んであげましょうか」
「そんなら、家へ電話かけてお松をよんで頂戴」
「医者も呼んであげましょう」
「いいえ、お医者はんはもう結構だす。すぐなおりますさかい、お医者さんはいりまへん。池谷さんにも、うちのこと知らせたらあきまへんし」
糸子はひどく医者を恐怖していた。もちろん池谷医師に対する不信のせいであろうと思われるが。
帆村と大川主任とは、糸子をいろいろと慰めてから、その部屋を出た。そして廊下に出て、たがいに顔を見合わせた。
「糸子はんのことは、首にかけて引受けまっさ。どうぞ安心しとくなはれ」
と大川主任は強く自信ありげな言葉でいった。
「じゃ、貴官にくれぐれもお頼みしますよ」
そういって帆村は、主任の手をギュッと握った。部長は帆村の心の中の秘めごとも知らず、ただ感激して帆村の手を強く握りかえした。
蠅男|包囲陣
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