から出した紙片になにかスラスラと器用な左書きで文字をかきつけて、大川主任に手渡した。
 大川はそれを受取って大急ぎで読み下した。そして無言のままおおきく肯《うなず》くと、そのまま部屋を出ていった。
「ハイハイ、お待ちどうさま。僕は帆村ですが、貴方はどなたさんですか」
 すると向うで、作り声らしい太い声が聞えてきた。
「探偵の帆村荘六君だネ。こっちは蠅男だ」
「えッ、電話がすこし遠いのでよく聞えませんが、ハヤイトコどうするんですか」
「ハヤイトコではない、蠅男だッ」
「えッ、早床《はやとこ》さんですか。すると散髪屋ですね」
 向うで呶鳴《どな》る声がした。
 帆村は今日にかぎって、たいへんカン[#「カン」に傍点]がわるいらしい。
「ああそうですか、蠅男だとおっしゃるんですな、あの今大阪市中に大人気の怪人物の蠅男でいらっしゃるわけですか。ちょっと伺いますが、本当の蠅男さんですか。まさか蠅男の人気を羨《うらや》んで、蠅男を装っているてえわけじゃありますまいネ」
 電話器の向うでは、せせら嗤《わら》う声が聞えた。帆村はソッと腕時計を見た。話をはじめてから、まだ四十秒!
「オイ帆村君。君は美しい
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