ったんですなア。そうすれば、同じホテル内の部屋にかけたにしろ、電話局まで大廻りして来たから、電話の声がホテル内同士でかけるよりはずっと小さくなったんです。実に巧みな奇略だ」
「なるほどなア」と巡査部長は感心をしたが、
「しかし、なんでそんなややこしい事をしましたんやろ。糸子さんの胸の上にでも、その脅迫状をのせといたらええのになア」
「いやそれはつまり、今ホテルに蠅男が入っていることを知られたくはなかったんです。あくまで自分は井上一夫で、蠅男ではないという現場不在証明《アリバイ》を作って置きたかったんです」
「なるほどなるほど。それにしても蠅男ほどの大悪漢のくせに、小さいことをビクビクしてまんな」
「いやそこですよ」
 といって帆村は二人の顔をジッと見た。
「蠅男は今にもう一度このホテルに帰ってくるつもりなんですよ。普通の泊り客らしい顔をしてネ」
「えッ、蠅男がもう一度ここへ帰ってくるというのでっか。さあ、そいつは――そいつは豪《えら》いこっちゃ。どないしまほ」
 そのとき廊下をボーイが、急ぎ足でやって来た。
「ああ、いま帳場に電話が来とりまっせ。井上一夫はんいうお客さんからだす」井上一
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